この記事で伝えたいこと
- 採用ペルソナを作る前に、経験年数・業界経験・資格・学歴などの採用条件が本当に必要か確認する
- Mustは「入社後すぐに任せる仕事」と「社内で教育できるか」から判断する
- 採用ターゲットを決めた後、その人の転職理由と自社を選ぶ理由を考えるためにペルソナを使う
中小企業の採用ペルソナ・採用ターゲットはどう決めればよいのか。経験年数や業界経験などの条件を、入社後に任せる仕事から見直し、Must条件・採用市場・給与・転職理由・自社を選ぶ理由まで整理する方法を解説します。
「採用ペルソナを作りたい」と相談を受けたとき、私は最初から年齢や経歴、性格などの人物プロフィールを埋めることはしません。
まず確認するのは、なぜ採用するのか、入社した人に何を任せるのか、その仕事をするために本当に必要な条件は何かです。企業から「営業経験3年以上」「業界経験必須」「大卒」「30代くらい」といった条件が出ても、そのまま求人のMust条件にはしません。
採用条件は、増やすほど人物像が具体的になる一方で、応募できる人の範囲も狭くなります。大切なのは理想の人物像を細かく作ることではなく、今回任せる仕事から必要条件を決め、市場と自社条件に合う採用ターゲットへ整理することです。
この記事では、採用担当がいない・採用を兼務している中小企業を想定し、求人を出す前にどこまで採用ターゲットを整理すればよいかを、実際の採用支援で確認している順番に沿って解説します。
最初に、採用ターゲット、採用ペルソナ、採用基準を分けて考えます。似た言葉ですが、採用活動での役割は同じではありません。
| 項目 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| 採用ターゲット | 誰を採用対象にするかを決める | 月次決算を一人で進められる経理経験者 |
| 採用ペルソナ | その人の転職理由や仕事選びの条件を具体化し、何を伝えるか考える | 現職で経理を担当し、より一連の決算業務を任されたい人 |
| 採用基準 | 実際の選考で採用可否を判断する | 月次決算の実務を一人で遂行できるか |
採用ターゲットは、今回の採用でどの範囲の人を対象にするかを決めるものです。経験、スキル、任せたい仕事などから、応募してほしい人の範囲を整理します。
たとえば「法人営業経験3年以上」と年数だけで置くのではなく、「顧客との商談を一人で進め、提案から受注まで担当できる人」のように、実際にできてほしいことまで言葉にします。
採用ペルソナは、採用ターゲットの中にいる人をより具体的に想像し、その人に求人で何を伝えるかを考えるための仮説として使います。
現職で何に困っているのか。なぜ転職を考えるのか。給与、仕事内容、働き方、キャリアのうち何を重視するのか。そこまで考えることで、自社から伝えるべき情報が見えやすくなります。
採用基準は、応募者を実際に採用するか判断するための基準です。ペルソナに設定した属性を、そのまま合否基準にするものではありません。
特に年齢、性別、家族構成などを「理想の人物像」として考えた結果、それをそのまま選考基準へ持ち込まないよう注意が必要です。厚生労働省は募集・採用における年齢制限を原則禁止しており、公正な採用選考では本人の適性・能力に基づいて判断することを求めています。
つまり、順番は採用ターゲットを決める → ペルソナで転職理由や訴求を具体化する → 採用基準で選考するです。
採用の相談では、最初から条件が細かく決まっていることがあります。
もちろん、実際に必要な条件もあります。ただ、私はこれらを見たときに、まず「その条件がないと、今回任せる仕事ができないのか」を確認します。
「3年以上なら一人前だと思う」「前任者がそれくらいだった」といった理由で年数が決まっていることがあります。
しかし、同じ3年でも経験した業務の範囲は人によって違います。逆に、2年でも今回任せる仕事を一人で遂行できる人がいるかもしれません。
経験年数を使ってはいけないという話ではありません。年数だけで必要能力を説明できるかを確認することが重要です。
業界経験も同じです。その業界特有の知識が入社初日から必要なのか、入社後に学べるのかで判断は変わります。
営業職なら、同じ業界にいたかだけでなく、法人・個人、新規・既存、商材単価、商談期間、顧客との関係性など、どの経験が今回の仕事へ転用できるかを見ます。
法律や業務上、資格がなければ担当できない仕事ならMustです。一方、「以前から条件に入っているから」「この職種なら大卒が一般的だから」といった理由だけなら、今回の仕事内容と結び付けて考え直します。
資格や学歴を外すこと自体が目的ではありません。その条件を残す理由を、任せる仕事から説明できるかを確認します。
「若い人がいい」「30代前半まで」といった要望が出た場合も、なぜそう考えているのかを聞きます。
たとえば「今後リーダー候補として長く働いてほしい」「新しいやり方を吸収してほしい」という期待なら、それを年齢ではなく、今回必要な経験や役割、期待する行動へ置き換えられないか考えます。
募集・採用における年齢制限は原則禁止されています。採用条件は、職務上必要な適性・能力を軸に整理します。
人物像を決める前に、まず採用背景と組織を見ます。私は採用の打ち合わせで、次の順番を確認します。
欠員か増員か。なぜ今採用するのかを確認する
誰が何を担当し、今回の人がどこを担うのかを見る
入社直後から何を任せるのかを具体化する
その仕事を遂行するために本当に必要な条件へ落とす
欠員なのか、事業拡大の増員なのか、新しい仕事を任せたいのか。背景によって必要な人物は変わります。
欠員で、退職者が担当していた業務をすぐ引き継ぐ必要があるなら即戦力性が高くなります。一方、増員で育成期間を取れるなら、経験を広げられる可能性があります。
採用人数・優先順位・期限から整理できていない場合は、先に中小企業の採用計画の立て方で、なぜ採用するのか、本当に採用で解決するのか、いつまでに必要なのかを整理してみてください。
「営業」「経理」「Webマーケティング」といった職種名だけでは、必要な条件は決まりません。
営業なら、誰に何を売るのか。新規開拓なのか既存顧客対応なのか。アポイント獲得から受注まで一人で担当するのか。経理なら、仕訳入力なのか、月次決算なのか、年次決算まで任せるのか。
職種名を、入社後に実際にやってもらう業務まで分解することで、必要条件を考えやすくなります。
必要条件は、候補者本人だけを見ても決まりません。
入社後に質問できる先輩がいるのか。上司が実務を教えられるのか。既存メンバーが自立していて、マネジメントをほとんど必要としていないのか。組織によって、同じ職種でもMustは変わります。
MustとWantを分けるとき、私は「できれば経験者が安心だから」ではなく、入社後すぐに仕事を任せるために必要かを基準にします。
欠員募集で、入社した人へすぐ特定業務を引き継ぐ必要があり、その業務を社内で教える時間も取れない。こうした場合は、その実務経験をMustとして残します。
一方で、入社後に学べる知識や、ほかの経験から転用できる能力までMustにすると、採用対象を必要以上に狭めることがあります。
採用条件を一つずつ、次のように考えます。
NOならWantや条件外へ移せないか検討する
YESなら入社後に補える条件としてWantへ移せないか再検討する
すぐ必要で教育も難しい条件をMustとして残す
Mustを減らすこと自体が正しいわけではありません。入社後すぐ必要で、教育でも補えないものは残す。それ以外を本当に必須にする必要があるか確認します。
「経理経験5年以上」なら、5年という数字の代わりに、何ができればよいかへ置き換えます。
たとえば今回必要なのが月次決算を一人で進められることなら、採用条件は「経理5年以上」ではなく、月次決算の一連業務を遂行できることの方が、仕事内容と結び付きます。
営業も同じです。「営業経験3年以上」ではなく、「新規顧客との商談を一人で進め、提案から受注まで担当できる」など、今回必要な能力へ変換します。
同業経験をMustから外せないか考えるときは、業界名ではなく仕事の共通点を見ます。
顧客折衝、数値目標、新規開拓、提案、関係構築など、別業界でも共通する経験があります。今回必要な力が別業界でも身につくものなら、採用ターゲットを広げられる可能性があります。
社内で採用ターゲットを整理しても、その人が実際の採用市場にいるとは限りません。私は求人を出す前に、職種、地域、経験、給与、働き方などを市場と照らします。
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」では、職業ごとの賃金や求人倍率などを都道府県別に確認できます。統計上の職業分類と自社求人が完全に一致するとは限りませんが、採用難易度や給与水準を見る一つの入口になります。
「今は人手不足だから採用できない」と一括りにはしません。同じ地域でも、職種によって候補者数や求人の多さは違います。同じ職種でも、業界経験や資格を必須にすれば対象者はさらに変わります。
見るべきなのは全国の平均だけではなく、今回募集する職種 × 地域 × 必須条件です。
競合求人を見るときも、職種名だけで比較しません。
「営業職」という名前が同じでも、未経験可と法人営業5年以上必須では、狙っている候補者が違います。今回設定したターゲットに近い求人が、どの給与・働き方・仕事内容で募集しているのかを確認します。
市場とのズレが見つかったとき、私は最初から「給与を上げましょう」とはしません。
まず、設定したMustが本当にすべて必要かをもう一度確認します。外せる条件を外しても狙う人材と自社条件に差があるなら、そこで給与を見直します。
ここまでで採用ターゲットが見えてきたら、次にペルソナを具体化します。
考えたいのは、「この人を採りたい」という企業側の理由だけではありません。その人がなぜ転職を考え、なぜ自社を選ぶのかです。
たとえば営業経験者なら、「もっと大きな裁量を持ちたい」「既存顧客だけでなく提案の幅を広げたい」「給与を上げたい」「残業を減らしたい」など、転職理由は一つではありません。
ペルソナを作るときは、趣味や家族構成を細かく設定することより、転職先を選ぶ判断に影響する情報を具体化します。
マイナビの「転職活動における行動特性調査2025年版」では、転職活動者がこだわった項目として「納得のいく収入」「希望のエリア」「休日・残業時間が適正」がいずれも高い割合でした。
候補者は、企業の採用条件に自分が合っているかだけを見ているわけではありません。企業側も、候補者の転職条件に自社が合っているかを見る必要があります。
ターゲットとなる人が給与を重視しているなら、自社の給与が市場と合っているか。仕事内容を重視しているなら、入社後に任せる仕事を具体的に伝えられるか。キャリアを重視しているなら、どんな役割へ広がるのか説明できるか。
両方が重なる部分を、求人で具体的に伝えます。
採用ペルソナは、企業が理想の人物を描くためだけのものではありません。ターゲットとなる人に、自社の何を伝えるべきかを判断するために使うものです。
実際に支援した経理採用で、最初は次の条件が設定されていました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 経理経験 | 実務経験5年以上 |
| 決算経験 | 月次・年次決算の一連業務 |
| マネジメント | 経験必須 |
| 資格 | 日商簿記2級 |
| 給与 | 年収500〜600万円 |
この条件での採用活動は、月間応募数が3〜4名、面接0名、採用0名という状況でした。
まず、現在の経理メンバーが何を担当し、今回採用する人に何を任せるのかを確認しました。
既存メンバーは一定自立しており、今回のポジションでマネジメント業務の重要性は高くありませんでした。一方、入社後に必ず任せたいのは月次・年次決算の実務で、社内で長く教育する時間も取れない状況でした。
そこで、本当に必要な条件を整理すると、重要なのは「経理経験5年以上」「マネジメント経験」「簿記2級」という条件をすべて満たすことではなく、月次または年次決算の一連業務を、周囲へ頼らず遂行できる実務力でした。
変更後のMustは、月次決算または年次決算の一連業務の実務経験としました。経理補助として一連の業務に関わっていた人も対象に含めています。
また、マネジメント層を採用する必要がないと判断したため、同じ人物像の給与を下げたのではなく、採用対象そのものを変更し、そのターゲットに合う年収350〜420万円へ給与レンジを変更しました。
この数字を、ターゲット変更だけの効果だと断定することはできません。採用結果には求人内容、掲載状況、選考、候補者対応、市場環境など複数の要因が影響します。
この事例で重要なのは、採用条件を単純に下げたのではなく、組織と仕事内容から「本当に必要な能力」へ戻したことです。採用要件・ターゲット・給与レンジを見直した後、採用活動の数字も改善しました。
ペルソナを整理した後で媒体や募集手法を検討したい場合は、中小企業の採用媒体の選び方で、求人広告・スカウト・人材紹介の比較手順も確認できます。
ターゲットとMust条件を整理した後は、中小企業の求人票の書き方で、仕事内容・教育体制・条件を募集文章に変える手順を確認できます。
採用ペルソナをどこまで細かく作ればよいか迷ったら、まず次の5つが説明できるか確認してみてください。
| 確認項目 | 確認したいこと |
|---|---|
| 1. 任せる仕事 | 入社後に具体的に何を担当してもらうか説明できるか |
| 2. Must | なぜその経験・スキルが必須なのか、仕事から説明できるか |
| 3. 給与 | 設定した採用ターゲットと市場を見たときに大きくずれていないか |
| 4. 転職理由 | その人がなぜ今の会社から転職したいと考えるか想定できるか |
| 5. 自社を選ぶ理由 | その転職理由に対して、自社が何を提供できるか説明できるか |
この5つが整理できれば、求人作成へ進むための土台ができます。
採用ペルソナを作ること自体が目的ではありません。「誰が欲しいか」ではなく「何を任せるか」から必要条件を整理し、その人が市場にいて、自社を選ぶ理由があるかまで確認する。そのうえで求人へ落とし込みます。
ターゲット整理だけ支援を受けるか、採用全体を任せるか迷う場合は、中小企業がRPO・採用代行を使うか判断する基準で、自社の知見・工数に合う支援範囲を確認できます。
すでに求人原稿を作成している、または現在掲載中の求人がある場合は、無料求人診断で求人内容とターゲットのズレを確認できます。
ターゲットを整理して求人を出した後も応募が来ない場合は、求人が見られているか、クリックされているか、応募開始後に離脱していないかなど、別の切り分けが必要です。Indeedに掲載している場合は、Indeedに求人を掲載しても応募が来ない原因は?確認したい数字と改善方法で工程別の確認方法を解説しています。媒体を限定せず応募不足を整理する場合は、求人を出しても応募が来ない原因は?中小企業が見直すべきポイントも参考にしてください。
採用計画や採用ターゲットを自社だけで整理しづらい場合は、条件を増やす前に、まず採用背景・組織・任せる仕事から一緒に整理することもできます。
採用ターゲット・求人設計のご相談
「経験年数や業界経験をどこまで必須にするべきか分からない」「欲しい人材像はあるけれど、この給与や条件で採用できるのか判断できない」そんな場合は、採用背景や組織構成、入社後に任せる仕事を確認しながら、本当に必要なMust条件・採用ターゲット・給与や市場とのズレ・求人で伝えるべきポイントを整理します。