この記事で伝えたいこと
- Excelをやめることが業務改善ではない。業務に合っていれば使い続けてよい
- 転記や属人化に困ったら、ツールの前に業務の目的とINPUTからOUTPUTまでの流れを見る
- Excelの機能・性能・保守性、SaaSへの適合、独自システムの費用対効果を順に確認する
中小企業のExcel管理はどこまで続けられるのか。転記・重複入力・属人化を業務フローから整理し、Excelのまま改善するか、SaaSや独自システムを検討するかを5段階で判断。Excelを活かした2つの実務事例も紹介します。
「Excel管理がそろそろ限界なので、SaaSを入れたい」。そう考えたとき、最初に確かめたいのは新しいツールの機能ではありません。今のExcelで、何ができなくなっているのでしょうか。
同じ情報を何度も入力しているのか。計算や読み込みが遅いのか。作成者しか仕組みを理解していないのか。どれも困りごとですが、原因と直し方は違います。入力元をまとめるだけで解決する業務もあれば、Excel運用を続けること自体が負担になる業務もあります。
Excelをやめることが業務改善ではない。 この記事では、業務の目的と流れを整理したうえで、Excel継続・SaaS・独自システムのどれが合うかを判断する順番を解説します。
Excelで十分に回る業務はあります。設計積算、経費精算申請、設備メンテナンス計画、日報・報告管理などでも、扱う情報と処理が整理され、必要な人が迷わず使えているなら、Excelを続ける選択はできます。
ただし、業務名だけで「Excelが最適」とは決められません。同じ経費精算でも、申請件数、確認する人、承認の流れ、後続業務への受け渡しによって、向く仕組みは変わります。
新しいツールに置き換えても、入力や確認が増えれば現場は楽になりません。見るべきなのは、Excelを使っているかどうかではなく、その業務の目的と運用に合っているかです。
注文書、見積依頼書、仕様書、管理台帳へ、同じ案件名や資材情報を毎回手入力している。提出先ごとに体裁を整えるため、元の情報を何度もコピーしている。こうした状態なら、まず入力元と出力先のつながりを見ます。
帳票をExcelで作ること自体を問題にはしません。共通の情報を一度入力し、必要な書類へ使い回せる設計になっているか。データの持ち方と、INPUTからOUTPUTまでの設計に改善余地がないかを確認します。
担当者が作った関数を別の人が消してしまい、直せるのは作成者だけ。壊れたときにどのセルを確認すればよいか分からず、「この列には触らない」といったルールだけが増えていく。これでは、担当者が不在のたびに業務が止まりやすくなります。
この問題を「Excelだから」と片づける前に、入力箇所と計算箇所を分けられないか、処理の意味を残せないか、修正を引き継げるかを見ます。管理設計と保守性の問題です。複雑な仕組みを作れても、社内で維持できなければ、その運用を続ける負担まで含めて判断します。
起案書を作ったあと、管理台帳へ同じ内容を入力し、取引先向けの書類にも打ち直す。一つの情報が変わるたびに、どこまで修正したかを人が覚えている状態になっていないでしょうか。
ここでは新しいシステムを探す前に、一度入力したデータを再利用できないかを考えます。入力元を決め、そこから書類や台帳へ情報を渡せれば、Excelのままでも重複入力を減らせる場合があります。
改善方法を考えるとき、私がまず確認したいのは次の5つです。「Excelが使いづらい」という相談でも、画面やファイルだけでなく、仕事の始まりから終わりまでを聞きます。
INPUTは、案件情報や数量、日付などの入力情報。OUTPUTは、帳票、計画、集計結果など、業務で使う出力です。その間に人の確認や承認、修正がどのように入るかも見ます。
たとえば書類作成に困っていても、必要な情報が各部署に分かれていれば、作成画面だけ変えても情報を集める手間は残ります。まず流れを整理し、課題、原因、優先順位を決め、そのあとに手段を選んで実行します。
業務改善そのものを何から始めればよいか迷う場合は、中小企業の業務改善で最初に整理したい5つのことも参考になります。ここからは、整理した業務をどの仕組みで支えるかに絞って見ていきます。
次の5段階で考えます。Excel、SaaS、独自システムを順に高度化していく流れではありません。途中でExcelが合うと判断できれば、そこで改善を進めます。
ルールにできない部分は人に残すか、業務フローを見直す。整理できる部分はSTEP2へ
表現できればExcelで改善。難しければSTEP3へ
VBA等も含め、無理なく運用・保守できればExcelで改善。問題があればSTEP4へ
業務フローを既存SaaSに合わせられればSaaSを検討。難しければSTEP5へ
費用対効果があれば独自システムを検討。見込めなければ現行業務・Excel・一部改善を再検討
どの情報を使い、どの条件で、何を計算・判断するかを説明できるか確認します。担当者が経験で判断している部分と、決まった条件で処理している部分を分けます。
ルールとして整理できない部分は、人の判断を残すか、業務フロー自体を見直します。曖昧な判断をそのまま仕組みに移しても、例外のたびに人が補う運用になりかねません。整理できる処理について、次の段階へ進みます。
必要な入力、計算、集計、出力をExcelの基本機能で表現できるなら、Excelで改善します。入力元や表の構成を整理することで対応できるなら、置き換えを急ぐ必要はありません。
一方、基本機能だけでは業務の流れを無理なく表現できない場合は、VBA等も含めたExcel運用で対応できるかを確認します。
「動く仕組みを作れるか」だけでなく、実際の利用条件で使い続けられるかを見ます。処理速度や読み込み時間、ファイル容量、データ量、利用人数を確認し、担当者が変わっても保守できるかまで考えます。
ファイル容量が何MBを超えたら限界、と一律には決めません。日々の業務で待ち時間がどこに発生し、どの処理に支障が出ているかを具体的に確かめます。修正のたびに一人へ依頼が集中するなら、それも運用上の負担です。
性能と保守性に問題なく対応できるなら、Excelで改善を進めます。対応しづらい問題が残る場合は、既存SaaSを検討します。
SaaSは、既存のクラウドサービスを利用する選択です。必要な業務を扱えるかに加え、そのサービスの入力・承認・出力の流れに、自社の仕事を合わせられるかを確認します。
今の帳票や手順をすべて再現することだけを条件にすると、選択肢は狭まります。変えてよい社内ルールと、取引先対応などで変えられない条件を分けます。必要な業務を満たし、現場の運用も変更できるならSaaSを検討します。
既存SaaSに合わせると必要な業務が成立しない場合は、次に費用対効果を見ます。SaaSで難しいという理由だけで、独自開発へ進むわけではありません。
作業頻度と現在の工数、ミスが起きた場合の影響を整理し、開発費だけでなく維持・保守費も含めて見ます。どのくらい使う予定か、今後の業務量はどう変わるかも判断材料です。
使う頻度が低い業務に大きな費用をかけるより、Excelの一部を整え、人が確認する方が合う場合もあります。逆に、繰り返し発生する負担やミスの影響が大きく、継続して使う業務なら、独自システムを検討する理由になります。
既存SaaSでは対応できず、独自システムの費用対効果が見込める場合に検討する。 見込めなければ、現行業務やExcel運用、一部だけの改善へ戻ります。
何の仕組みを使うかと、その作業を人が行うか、自動化するかは別の判断です。Excelを選んでも人が入力・確認する運用はありますし、ExcelとVBAを組み合わせて処理する方法もあります。
SaaSを使いながら人が確認することも、独自システムで決まった処理を自動化することもできます。新しい仕組みに変えるから、すべて自動化しなければならないわけではありません。
まず業務に合う仕組みを選び、その中で何を人に残すかを考えます。AIや自動化も手段の一つです。この記事では、ツールの選択と作業の自動化を分けて判断するところまで押さえます。
どの業務を「なくす・減らす・自動化する・人に残す」のどこへ置くかは、中小企業の業務自動化で最初に確認したい判断方法で、必要性・費用対効果・エラーリスクまで詳しく整理しています。
ここからは、EnterLink側の実務経験に基づく改善事例です。一つ目は、汚泥処理プラントの計画調整です。運転計画(Excel-A)、製造計画(Excel-B)、搬出計画(Excel-C)、出荷先消費シミュレーション(Excel-D)が、別々のファイルとして存在していました。
各ファイルはチーム間・役職間で担当者や管理者が異なり、人がA〜Dを突き合わせて調整していました。計画が変わると各チームが自分たちのExcelを修正し、再び相互に確認する流れです。
改善では、4つのExcelの機能を1ファイルへ統合しました。Excel関数とVBAにより、数値チェック、アラート発報、数値変更などを自動化し、計画を調整するための情報と処理をまとめました。
| 段階 | 実施・変化したこと |
|---|---|
| 改善前 | 運転・製造・搬出・出荷先消費の4つのExcelを、部門ごとに修正して突き合わせていた |
| 改善内容 | 機能を1ファイルへ統合し、関数・VBAで数値チェック、アラート発報、数値変更などを自動化した |
| 改善後 | 部門をまたぐ調整を専任担当者1名で行えるようになり、調整時のシミュレーション時間を短縮した |
管理職の意思決定速度も向上し、確認漏れによる手戻りや損害につながるリスクを低減しました。実際の損害額がいくら減ったかを示す事例ではありません。
この事例で変えたのは、使うツールよりも情報と業務のつながりです。Excelを捨てる必要はなく、業務設計を見直すことで改善できました。 ただし、同じ統合方法がすべての会社に合うわけではなく、利用人数や処理量、保守できる体制を含めて判断します。
もう一つは、自社設備のメンテナンスに関わる工事・資材調達の業務です。書類作成、起案、管理台帳への記入、取引先向け書類の作成を、その都度手入力で行っていました。
書類ごとに作成する人や用途が違っても、使う情報には共通部分があります。そこで、業務に共通する情報を一元管理するマスターExcelを作成しました。マスターは、各書類や台帳が参照する入力元です。
そのマスターから必要な情報を各書類・台帳へ転記する関数とVBAを構築し、1起案ごとの書類作成・入力工数を削減しました。新しいSaaSを導入した事例ではなく、同じ情報を何度も入力する業務を見直した事例です。
個々の書類を速く作る方法だけでなく、「どの情報を一度入力すれば、後続の仕事で使えるか」を考える。Excelを継続する場合にも、ここから改善できる余地があります。
業務の棚卸しや現状工数の確認をせず、目についた作業だけに使うツールを導入する。すると、その前後で必要な情報収集や転記が残り、実作業者の手間が増える場合があります。
たとえば入力画面が一つ増え、出力結果を別の台帳へ転記するなら、導入前より作業が増えていないかを確認する必要があります。限定的な用途のツール自体が悪いのではなく、業務全体のどの負担を減らすかを決めずに導入することが問題です。
機能が多いと「何でもできる」と感じます。ただ、自社で使う機能が少なく、Microsoft OfficeやGoogle Workspaceで十分に対応できる業務なら、追加の費用に見合う理由を確かめたいところです。
比較するのは機能数ではなく、自社で必要な入力、処理、出力と運用です。便利そうな機能が並んでいても、今回の課題を解決しなければ導入理由にはなりません。
システムの出力後に人が補記する。Excelと二重管理する。使える機能を社内ルールで禁止する。部門ごとに運用が異なり、結局、人が情報を突き合わせる。こうした状態では、導入した仕組みの利点を活かしづらくなります。
変えられない業務条件はあります。その条件を導入前に整理し、現場がどう使うかまで決めます。業務を整理せず、ツールだけ変えても業務改善にならないことがあるという点は、ExcelでもSaaSでも同じです。
次の8項目を、自社の具体的な業務に置き換えて確認してください。すべてを完璧な資料にする必要はありませんが、分からない項目があれば、ツール選びより先にそこを整理します。
「Excelで対応できない理由」がまだ曖昧なら、転記、待ち時間、担当者依存など、困っている場面を具体化します。そのうえで、Excel内の改善で解決するか、別の仕組みが必要かを判断できます。
Excelを続けることも、業務改善の正解になり得ます。まず業務の目的、課題、業務フロー、INPUTからOUTPUTまでを整理し、原因と優先順位を決めます。
Excelの基本機能やVBA等で、性能・保守性も含めて対応できるなら、そのまま改善する。対応しづらければ既存SaaSと業務の適合を見て、それでも難しい場合に独自システムの費用対効果を確認する。費用対効果が見込めなければ、現行業務や一部改善へ戻ります。
Excel、SaaS、システム開発は、どれも手段です。 新しくすることではなく、その業務に必要な手段を選び、実際に使える状態まで進めることを重視しています。
Excel・業務改善のご相談
「Excelが限界な気はするけれど、SaaSを入れるべきか分からない」「同じ入力や転記が多いが、どこから直せばいいか分からない」そんな場合は、現在の業務フローやINPUT・OUTPUT、利用人数、処理量などを確認し、Excelの改善で十分なのか、SaaSや独自システムを検討すべきなのか整理します。